井本 礼子 写真展「夢みる螺旋」

2008年6月3日(火)〜28日(土) 作家略歴     オリジナルプリント 写真集

Gelatin silver prints, 11x14inches, edition of 8, with Reiko Imoto's signature and edition notations

       
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『夢みる螺旋』展は、『ドリームスケープ(Dreamscapes)』と、『記憶喪失者の見た夢(Dreams of the Amnesiac)』の2シリーズが共に展示されたものである。どちらも「夢」に関するプロジェクトであるが、前者は「遥かな記憶」をテーマとし、後者は 「忘却と不在」をテーマとしたシリーズである。     
前者の『ドリームスケープ』シリーズは、自身が付けている夢日誌にインスパイアされ生まれた作品であり、主に三枚の組み写真から構成されている。私はこの プロジェクトを通し、子供の頃に自身の頭の中にあった謎や空想の世界を思い起こしながら、夢や潜在意識の領域から受けた不思議な印象とその雰囲気を表現す ることを試みた。大人になった今も、子供時代の意識が、過去からの木霊(こだま)のように夢の中に繰り返し戻ってくる。それはあたかも、私が忘れてしまっ た何か大切なことを知らせたいかのように。スイスの心理学者、カール・ユングの「普遍的無意識」に唱えられているように、私たちの遺伝子に伝えられ保持さ れた先祖の経験の記憶が、夢にさえも比喩として含まれているのかもしれない、という思想にも影響を受けこのシリーズは制作された。
そして次に、後者の『記憶喪失者の見た夢』(単写真のシリーズ)をほんの少しだけご説明したい。私が以前アメリカに住んでいた時に、夢の研究をしている一 人の心理学者に、こんな質問をする機会に恵まれたことがある。「記憶喪失者は、自分の過去の記憶に関係がある夢を見るのでしょうか?」その心理学者曰く、 「ええ、彼らはそういった夢を見ますよ。でも何の夢を見たかは、決して覚えていないのです。」この言葉の印象深さが鍵となり、「忘却と不在」の感覚をテー マとした写真プロジェクトは形あるものへと導かれていった。
私にとって、“目に見えないもの”の空気を視覚化しようとすることは純粋な悦びであると同時に、「謎かけのある詩」を作るような作業でもある。『夢みる螺旋』展へようこそ。

井本礼子


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