落合由利子 写真展
             
CORNEREVA
ROMANIA 1991

2025年6月6日(金)〜 6月28日(土)  落合由利子作家略歴

【トーク Vo.1】6月6日(金)19:00~20:30
      ゲスト:毛利嘉孝(社会学者、東京藝術大学院教授)
      進行:タカザワケンジ(写真評論家)
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【トーク Vo.2】6月14日(土)17:00~18:30
      ゲスト:大森克己(写真家)

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ゼラチンシルバープリント

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 1989年11月9日、ベルリンの壁崩壊のニュースが世界を駆けめぐった。
 壁によじ登り抱き合う東西ベルリン市民、シャンペンを飲み交わし、歌を歌い、ハンマーで壁をたたき割り、放心したように空を見上げながら国旗を振り続ける人……。東欧のみならず世界の歴史の流れが変わろうとしている瞬間だった。
 しかし実を言うと、テレビに映し出されたその映像の事の次第がよくわかっていなかったようにも思う。そして知りたいと思った。この人たちはどんな生活をしていて今何を感じているのか、実際に会って話してその手に触れてみたいと思った。
 ベルリン、チェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、民主化の波に揺れる東欧での3ヶ月は、いろいろなメッセージを受け取る旅だった。

 1年半後、日本以外の国に暮らし、旅人ではなく生活者として写真が撮りたいという思いに駆られていた。どこにでも行けたはずなのにルーマニアに行くことにした。政治的に翻弄された東欧諸国を巡るなかで、ルーマニアで感じた「土の匂い」をもう一度確かめてみたい、そう思ったのだ。

 1991年秋、私は電話もテレビもないルーマニアの山間の村、コルネレバの一軒の農家の大きな扉の前に立っていた。列車を降りてから5〜6時間バスに揺られ、さらに小1時間歩いただろうか。手に握りしめたブカレストの知人が書いてくれた紹介のメモだけが頼りだった。薄暗くなり始めたころ、道の向こうから農具をたずさえた人影が現れた。老夫婦に2歳くらいの子ども、そして若夫婦。彼らは差し出されたメモを見ながらなにやら相談している。私の笑顔はかなりこわばっていたと思う。しばらくして大柄な老夫は家の扉を開け、にこやかに招き入れてくれた。知らない国から来た言葉も通じない他人の私を受け入れてくれたのだ。
 ジャガイモの収穫、ジャム作り、クルミ拾い、ツイカ(プラムの蒸留酒)作りと、冬支度で大忙しの日々。そこには大地の恵みと営みに満ちた世界があった。
 私は何を探しにこんなに遠くまで来ているのだろうと自問自答を繰り返しながら、命を育む社会、命にさす光を感じ求めてはシャッターを切っていた。
 それらを見つめ直し、今、改めて形にしたいと思った。  


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