「CUBA 」
井本 礼子
Reiko IMOTO
2015年7月中旬発行
3,500円+税
上製本/写真75点
サイズ 200x265x15mm
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世の中には、現状に満足し、日々淡々と生き切れる人と、それとは逆に、ここではない遠い何処かに「居場所」を夢見て止まない人がいる。同じ環境に育った兄弟姉妹にもこの二種類の人間が存在し、両者の物の見方や考え方は似ても似つかない場合がある。何故だろう?そして、人にとって幸福とは何だろう?ベルギーの作家メーテルリンクの『青い鳥』の結びは、「幸せの青い鳥はお家の中にいました。」だった。「幸せはどこか遠い所ではなく、あなたの心の中にいつもある。」というメッセージの物語だ。それは真実かもしれない。しかしそれでも尚、「遥か向こうの何処かには、きっと何か良い事が待っている。」という期待を掻き消せない人々がいる。規則や制限が厳しい環境に育ったならば、尚更の事。
2014年2月、私はキューバに滞在し、現地の人々と会話する機会を多く得た。キューバはカリブ海の島国で、社会主義国である。政府から許可を得た、ごく僅かな国民だけが海を越える事ができる。キューバの教育・社会福祉政策は充実しており、教育費、医療費は全国民に対し無料である。食料危機でも起きない限り、毎日の食材は皆に保証されている。だがそれでも尚、ある種の人々は海の向こうに希望を抱く。私がこの滞在で一番考えさせられた事は、人にとって「居場所とは? 幸せとは?」という事だった。その答えは、人それぞれであるのだが、どういうわけか、幸せの在処を巡る「青い鳥」の物語が、私達の頭から離れないでいる。たとえ青い鳥が何処に居ようとも、人はその居場所を自分の目で確かめてみたいだけなのかもしれない。
2014年12月17日、「アメリカとキューバが、54年振りの国交正常化に向け交渉を開始する」というニュースが世界中に流れた。この協議がスムーズに進めば、今後、キューバの生活環境は確実に変わってゆくに違いない。現在の社会主義のあり方がどのように変化していくのかは未知であるが、仮に、キューバの人々が自由意志で青い鳥を探せるような日がやってくるならば、幸せを巡る物語は、ようやく「本当の始まり」を迎えることになるのであろう。
(著者まえがきより抜粋)
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