"demain" 去年の夏アルルで覚えた言葉。明日という意味だ。
できたばかりのフランス人の友人に別れ際"demain"と言って手を振る。
お互いまるで子供のように笑顔で手を振る。
明日という言葉に懐かしさを覚えた。
幼い頃,
別れるときはいつも「また明日」だった のに、いつの頃からか「バイバイ」になっていた。
明日はもう今日の続きではなくなっていったのだ。
母の遺品の中に紙のケースに入った一本のモノクロネガがあった。
光にかざしてみると、ちゃぶ台を囲んでいる家族の記念写真だった。
どうやら妹のお食い初めのお祝いのようだ。
父が妹を膝にのせ、祖母と僕が写っているからシャッターを押したのは母だ。
数枚同じように写っている中に一枚だけ大きく左に傾いた写真があった。
気になって伸ばしてみると、父がいて妹がいて祖母がいて、そして母も写っているが
僕は写っていない。
この一枚は僕がシャッターを押したのだ。おそらく人生で初めて撮った写真。
父37歳、母28歳、僕は4歳、50年前の夏だった。
父も母も今の僕よりずっと若い。
明日はきっと今日より良くなると思えていた時代が写っていた。
古いアルバムにあるような写真を僕は撮りたい。
渡部 さとる |