小栗 昌子 写真展「フサバンバの山」

2011年8月5日(金)〜27日(土) 作家略歴     オリジナルプリント  写真集

Gelatin silver prints, 11x14inches, edition of 10, with Masako Oguri's signature and edition notations

       
       
       
       
       
   
       
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「フサバンバの山」

 遠野物語に“ただ青き原野なり”という一文がある。それは百年もの昔に書かれたものだが、今でもそっくりあてはまるといえる美しい景色が、ここ早池峰の麓に広がっている。

 ある日、私は偶然、その青き原野のかたわらを車で通り過ぎようとしていた。その瞬間、人の姿がちらっと見えた。遠くからしばらく様子をうかがっている と、そこは畑になっており、老夫婦が寄り添い何かを収穫しているところだった。よく見ると木の陰から屋根が少し覗いていた。煙突らしきものも見えた。私は “ここに暮らす人がいるのだ…”と、とても嬉しい気持ちになり、どうしても声を掛けてみたくなった。そして向こう側へと続く道を探し、家の入り口を見つ け、大きな声で「こんにちは」と叫んだ。

 その後は時おりお邪魔し、昔の話を聞いたり、この辺りで採れるものをご馳走になったりした。行く度に孫が来たと迎え入れてくれた。何度か写真も撮らせていただいた。前作の「トオヌップ」にある金婚式の写真がそれである。

 それから6年目の初春、爺々が亡くなった。本当に突然のことだった。

 ふたりでの共同作業が出来なくなり、仕事の量はずいぶんと減った。だが、豊富な山の恵みをいただくという生活に変わりはなかった。
私は、それから少しづつ婆々の写真を撮り始めた。いつしかもっと撮りたい、そして誰かに伝えたいと強く思うようになっていた。
 それから6年目の初春、爺々が亡くなった。本当に突然のことだった。

 ふたりでの共同作業が出来なくなり、仕事の量はずいぶんと減った。だが、豊富な山の恵みをいただくという生活に変わりはなかった。
私は、それから少しづつ婆々の写真を撮り始めた。いつしかもっと撮りたい、そして誰かに伝えたいと強く思うようになっていた。

 早池峰の麓に抱かれ、その山々を縦軸にして人生を織りなしてきた、美しいフサバンバの姿を多くの方々に見ていただけたら幸いである。

「命のこと」

 3月11日の震災を経験し、あらためて「命」という存在の重みを感じた。途方もない数の人達が一瞬にして亡くなり、その人生が途絶えてしまった。あたり まえのことだが、ひとつひとつのかけがえのない「命」である。私は今、そんな「命」を想い、自分自身のありようを確かめている。また、写真への思いを確かめている。そして、表現する者として、ここに伝えるべきことがあると考えている。

 

小栗 昌子


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