「砂界」
千村 明路
Akimichi Chimura
2012年9月発行
3,000円+税
上製本/写真62点
サイズ 300x220x12mm
HOME 作家HP |
|
2011年3月11日…あの大震災による津波で幾多の物が破壊され、多くの命と共に海へと流れた。私が足を運び続けていたその海岸にも、明らかに被災地のそれと判るかつての人の営みの影を背負い込んだ物が残骸となり打ち寄せ、その忘れられない日から一年が経とうとしてなお、冬を迎え、北風が吹く度潮流の変化から震災直後よりもさらに多くの名残が、今もその姿を露にし続けている。
けれどもそれは私にとって決して特別な存在ではなかった。震災による破壊という口実がその姿を何一つ正当化はしなかった。私のレンズは今までと同様に、新たに浜辺に辿り着いた物に向けられるだけだった。それまでに在った物と、震災で漂着した物…その両者に一体どんな違いが有るだろう。紛う事無きはただ、それが私達が拠り所とする社会と法から放り出され、顧みられる事なくそこに在る、その事実だけなのだから…。
ガンジス河の砂の数程に、無量無数に在る世界…仏教では『沙界』と呼ばれる思想。
私がレンズを通し視つめて来たのは、海の粗砂と物質が織りなす世俗に塗れた、思想よりなお即物的な『砂界』とでも呼ぶ物語。
その横たわる物達が語らうのはそれを生み出した、私達一人一人が内包する、心という世界が重なり合い紡ぎ出す、『社会』という営みの本質なのかもしれない…。
(著者あとがきより一部抜粋) |