幼い頃、夜になると眠ることが怖くて毎晩のように両親の枕元に座っていた。意識がなく なることによって自分や周りのものの存在が消えてしまうことに強い恐怖心を抱いていたからだと思う。自分から二人を起こすわけでもなく、暗い部屋の中でただ静かに座って二人の寝息を聞きながら気付いてもらえるまで待っていた。
今となっては、枕元に座った私に気付いてもらい一緒の布団に入れてもらった時の安心感よりも、悶々と一人きりで暗闇の中に座っていた時の記憶の方が強く心に残っている。
眠ることによって存在が消えてしまうかもしれないという恐怖心と他者に気付かれることによって存在を実感することができる現実感。どちらにも行動を移すことができず、暗闇の中で悶々と座り込んでいたその狭間の時間の中で、私は自分自身の存在と他者の存在を強く感じ、そして勝手にとても厳かな気持ちになり、怖いながらも安心感をも感じていたように思う。
それは今、とても惹かれる光景に出会って写真を撮る時の私の意識にも繋がっている。
相手に気づかれることなく、相手の領域に入り込むことなく相手と私との間の境界を感じながら息を殺してただその光景を見つめたい。
シャッターを切るときは自分や相手の存在の尊さを感じることができる唯一 の瞬間、と言い切ってしまうのは言いすぎのような気もするが、ただ何となく生活をしている毎日の中では感じることができない瞬間である、と言うことはできる。今、私にとって写真を撮ることは自分や他者の存在について考えたり感じたりできる確かな時間 であるのだ。
(著者あとがきより) |