「時空間の粒子」

名川明宏
Akihiro NAGAWA

2014年10月発行
4,500円+税
上製本/カラー写真36点
サイズ  240×310×17mm

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この作品は水と空が見える風景とそこから動き去っていく出来事を撮影した写真である。

シャッターを切る前の風景には私が見ている光景とそうではない光景が共存している。
水は絶えず形を変え、空は刻々と移ろい、出来事は過ぎ去っていく。
世の中は見えるものと見えないものが存在している。
シャッターを押すことでこれらの光景を画像に変換し、平面に定着している異なった時空間を私は繰り返し往来したい。

撮影を開始したのは2013年12月1日。その2日前の11月29日は父の命日だった。父は川崎市水道局の公務員で私が15歳のとき、勤務中の事故で他界した。
今、私には8歳の娘がいる。娘が生まれてからの私は自分の子供の頃のことをよく思い出すようになった。父はよく私を墓参りに連れて行った。18歳で戦死した父の兄のお墓だ。その伯父の乗っていた駆逐艦の模型を父と作ったことを今でも覚えている。私は娘と百人一首の暗唱を始めた。この暗唱は娘が5歳のお正月から7歳の誕生日の4月まで続いた。それから7カ月が過ぎた父の命日の墓参り帰り、ふと思いたって久しぶりに大師河原(多摩川)の河川敷に私は向かった。父はよく「川崎の水はうまい」と話していた。そんな父のことを思いながら見上げた空はあのときと同じ青空が広がっていた。

   

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