「団地のポートレート」

永幡 幸光
Yukimitsu NAGAHATA

2011年9月発行
2,800円+税
上製本/写真60点
サイズ 200x264x8mm

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永幡さんの写真集に寄せて

江戸時代には広大な放牧場、明治期に習志野原軍用地に転用され、昭和36年からはマンモス団地へと、高根台団地は、50年の歴史が深く刻み込まれています。あんなにも子どもと若夫婦であふれんばかりだった4~50年前、彼らが住居としていた建物が取り壊され、今新しい町並みへと踏み出しています。
商店街の店主、建て替え進む風景の中で歩く老人、公園の花見に集まる老若男女、旧建物の前の芝生でくつろぐ若夫婦、自転車で団地を取り抜ける中学生・・・。昔は繁盛していたんだろうな、子どもは独立してどこへ行ってしまったのだろうか、でも懐かしくて帰ってきたのだろうか、遊び場はあるのだろうか・・・。どの表情にも50年の時の移ろいとともに、これからのことまでが読み取れそうな気がしてくるのです。どれも初象(事象の始まり)であり顕象(盛んなとき)であり残象(終末に近づいているとき)であるように見えてきます。
坪井地区には、近世から中世にまでさかのぼれる集落があります。幕府の牧場の管理に駆り出されたご先祖様が、また演習場から響きわたる号令や銃声を、農作業しながら聞いていた人もいたはずです。
その地が、今や大きく変わろうとしています。都心へ直行電車が通り、大規模住宅開発が進んでいます。工事車両が行き交い、建設機械が槌音を響かせています。
農夫の顔に深く刻まれた皺、宅地周辺整備工事に精を出す工事関係者、物憂げな表情を向ける少女・・・。果たしてこれらは、初象か、顕象か、残象か。
高根台や坪井には、この地が歩んできた時の経過と風景があります。この肖像、写真集からは、その土地に刻まれた記憶が読み取れます。人の表情や仕草の一瞬をとらえ、そのなかに時と風景を記憶させています。

山本 稔

   

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