「長春2006-2015」

筋野 健太
Kenta SUJINO

2016年7月発行
4,500円+税
上製本/カラー写真91点
サイズ 260×267×16mm / 920g

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中国吉林省長春市。10年前の夏、乗っていたタクシーが不意に大通りをそれた。
渋滞を避けて裏道の小さな通りを進むと、黄土色の古びた建物が立ち並んでいて、
人々のにぎわいがあった。ここはかつての満州国の首都、新京の日本人街跡
だった。戦後日本人が去り、主に山東省から長春市に入ってきた人たちの街に
なった。

 しかし僕が訪れたその頃には、もうすでに取り壊しのカウントダウンに
入っていた。戦後ずっと住み続けた彼らは「私はこの家で生まれ、育った」
と胸を張って言った。建物も人も自然の摂理のように、新たなものへと 代わっていく。それらが繰り返され、土地の歴史がつくられていく。 それは仕方のないことだ。

 それでも僕は失われゆくこの街に、身体を置き、往時の日本人たちに思いを
はせ、住民たちと同じ時間を共有したかった。そうすれば、自分の存在を確認
することができた。逆にそうしなければ自分の心は、スカスカだった。

 街が壊されていったある日、僕は蓮の花を持った男を見かけ追いかけた。
交差点で立ち止まったので、花のにおいを嗅ごうと、のぞき込んだ。
しかしそれは造花だった。

(著者あとがきより抜粋)

      



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