稲垣徳文 写真展         
              
Paris Blue

2026年8月5日(水)〜 8月29日(土)  稲垣徳文 作家略歴


 

サイアノタイププリント

Copyright (c) Norifumi Inagaki All Rights Reserved


8月4日は、写真家ウジェーヌ・アジェの命日だ。2026年の今日、アジェは没後99年を迎えた。 私が彼の作品に初めて出会ったのは、1980年代末に銀座で開かれた回顧展でのことだった。
「失われゆく街並みを残した写真家」と形容される作品を見て、その景色はもはやこの世には存在しないだろうと思った。
しかし、2012年の秋、写真集のキャプションを頼りに現在の風景を検索したところ、画面にはアジェの作品とまったく変わらない同じ三叉路の風景が目の前に現れた。
それから数日かけてすべての撮影地を確認したところ、パリの街はこの100年、道の名前すら変わっていなかったことがわかったのだ。
それが本当であるなら、アジェと同じ大型カメラを携え、アジェの撮影したであろう場所から、そのピントグラス越しにパリの景色を眺めてみたい。
それが始まりだった。

これまでもパリをモチーフとした写真展を開催し、モノクロームの銀塩プリントやハンドメイドの鶏卵紙を用いてアジェが見た世界を表現することを試みてきた。
今やフィルム写真でさえ古典技法のひとつとなった。
確かに産業としてのアナログ写真は絶滅の危機にあるかもしれない。私自身も銀塩写真を取り巻く社会環境の変化に強い危機感を抱いてきた。
モノクロ印画紙の供給が非常に不安定なった時期もあり、フィルムや印画紙は写真を始めた頃に比べたらとても高価なものになってしまった。探しても手に入らない資材も増えてきた。
しかし、今は「必要なものは自分で作ればいい」と気持ちを切り替えている。結果、写真の技術史を追体験することになり、今では古典技法で作品を表現できるようになった。始めた頃は、まさか自分が湿板写真まで再現するようになるとは思ってもみなかった。

  本展では、これまでの技法に加えてサイアノタイプをガラスプレートにプリントしたサイアノ・グラス・プリントを展示している。
今回使用したサイアノタイプは、180年の歴史を持つ伝統的な処方とは区別されるおよそ30年前に開発された新しい処方、ニューサイアノタイプである。このサイアノタイプの「プルシアンブルー」はハーフトーンが非常に豊かで、白いパリの街並みが実によく映える。雨に濡れた石畳は瑞々しく、心地よい立体感を湛え、その青は日陰や室内、あるいは深く狭い谷間のような路地を包み込む「空気感」そのもの表現してくれる。
  サイアノタイプ の青「プルシアンブルー」の語源は、かつてプロシア(普魯西)で作られた青に由来している。それが後年、フランスで作られるようになった時、人々はそれを「Paris Blue」と呼んだのだ。
青く染まるパリの息遣いを感じてもらえる空間になれば幸いである。

                                                                                                                                       稲垣徳文


(株)冬青社  〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20  tel.03-3380-7123  fax.03-3380-7121  e-mail:gallery@tosei-sha.jp