世界初の写真集といわれる『自然の鉛筆』の「植物の葉」を見つけたのは昨年の春のこと。探しはじめて2年あまりそれは自宅近くの街路樹の根元に生えていた。早速、枝葉のひとつを持ち帰りフォトジェニックドローイングを始めた。
サイアノタイプのシンプルな青と白の造形。光の作用により物の形が紙の上に定着される過程には期待感と驚きがある。180年前、アナ・アトキンスが海藻の標本をプリントして以来、基本的な作法は変わらない。
白いシルエットに浮かぶ葉脈は幾何学模様のように美しい。
この、サイアノタイプ独特のプルシアンブルーの青は日本語では紺青と表記される。絵画の染料として北斎や広重の浮世絵にも用いられたことからEdo Blueとも表現される。
ゼラチンシルバープリントが発明される以前、サイアノタイプ は19世紀におけるポピュラーな写真技法のひとつだった。鶏卵紙に比べるとコントラストが高く、卵白やゼラチンなどの塗布層を持たないため用紙のテクスチャーそのままにマットにプリントされる。
あらためて大型カメラで撮影したパリの街並みやニセフォール・ニエプスのアトリエの風景をサイアノタイプにプリントした。
英国南西部のレイコックを訪れたのはそれから三ヶ月後のこと。
ヘンリー・フォックス・タルボットが残した「植物の葉」の子孫たちは村を流れるエイボン川沿いに茂っていた。「植物の葉」は白い小さな花を咲かせる。
タルボットは比較的若い枝葉を選んでプリントしていたようだった。
稲垣徳文
※ アナ・アトキンス:イギリスの植物学者。1842年にサイアノタイプを使った海藻の標本集を出版。
※「植物の葉」:セリ科シャク属の多年草。和名「芍」シャク。
英名「Wild Chervil」ユーラシア大陸東部からヨーロッパ東部まで広く分布する。山地の谷間から林の中など少し湿った場所に群生する。セリ科特有の香りがあり葉は色鮮やかな緑色。茎は直立し200cmほどに成長する。
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