小林 伸幸 写真展 2021年10月1日(金)〜30日(土) 作家略歴 |
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プラチナ・パラジウム・プリント+細川紙
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日本人は古来より、自然を愛で、敬い、共存努力をする事で独自の価値観と文化を築いてきた民族だ。ところが戦後の経済成長を経る事で、万物には神が宿ると考える日本独自の自然信仰が喪失してしまったように感じる。近年声高に叫ばれる環境破壊も、元を正せば当たり前とされてきた自然への畏敬の念と感謝の心が失われてきたからに他ならない。水は生命の源であり、山はもとより岩や樹々にも神が宿るとされてきた風習は、今やすっかり忘却の彼方だ。 人は自然に生かされ、敬意をもって手を入れる事で逆に自然を活かし、季節の移ろいを実感しつつ共生してきた筈だ。それにも関わらず、里山文化に代表される共存の営みは、年々荒廃の一途を辿っている。更に言うなれば、自然の中から贅沢なまでに美を感じ取った“優美”に代表される日本人の価値観、またその美意識は、一体どこへいってしまったのか。 今、経済成長と環境保護を両立させる生き方が世界的に求められているが、日本に元来根付く自然観こそが、その解決の糸口になるのではないか。そのような想いを抱きながら自然と対峙する中で、この作品は生まれている。 僕が神を感じ、撮影をすることで作品として生まれ変わるそれらの風景は、破壊と開発が進む現代においても、その手が掛からずに残ったものである。極端な言い方をすれば、先人達も同じ風景を見て、同様に神を感じた場所なのかもしれない。そう思うと、僕はその場所に綿綿と流れる雄大な時間を感じ、親近感さえ覚える。だからこそ、撮影せずにはいられない。自然とは、現世代の人達だけのものではなく、後世の人達にも残すべきものだから。 故に作品制作には、地球上で最も安定した金属であるプラチナを用いる。そして千三百年もの長きに渡り変わらぬ製法のまま生産され続ける細川紙に印画を施す。その性質上、共に経年変化を起こさない為、この作品は千年もの時を生き抜くと考えられている。これは言い換えれば、先人達も見たであろう風景を、現代の僕が見て歓喜し、千年後の人達に渡すという行為である。 ただ本来であれば、作品ではなく自然そのものが残っている事が望ましいのは自明の理。しかしどうなるかは誰にも判らない。故に僕は作品を作る。千年後の人達が住む世界には、どうか今よりも豊かな自然が残っていてほしい。同じ対象を見て、僕よりも更に歓喜してほしい。無力ではありながらも、そう想う。そうした切なる願いを込めながら、僕は作品制作を続けている。 小林 伸幸 |
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