田中 孝道 写真展「ヘ ラクレイトスの森」

2010年11月2日(火)〜30日(火) 作家略歴 

C prints, 24x30inches edition of 1, 20x24inches edition of 1, 16x20inches edition of 1, 11x14inches edition of 1, with Kodo Tanaka's signature and edition notations                 

       
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「制作ノオト」より

私の場合、撮影はポラロイド社の、4インチX5インチのネガタイプ「ポラロイド55T」フィルムを使い、自製のピンホールカメラで行う。引抜き現像後、定 着作業をしないので、このネガフィルムに残る現像液の残滓(かす)は大気中の変化を、素直に刻むレセプター(受容体)として機能する。 つまり、フィルム が単に乾燥するだけでなく、作業場の小諸(浅間山麓、標高960メートル)では、残滓が凍結してナイフで切り裂いたような鋭利な亀裂を表面に宿すほどに寒 冷になることもある。また、真夏の高温ではカラカラに凝固して、白い粉末を積み上げる。まるで事件現場の遺留品のように、フィルム自体が置かれた状況を雄 弁に語るのである。

 ネガ・フィルムの経時変化から、被写体のイメージが刻々と変化していく過程がみてとれる。きわめて不可知領域の出来事といっていい。ここでは、「何がど んな様子で写っているか」というイメージの明証性がゆるやかに希薄になっていく。撮影によって得られた写像は、休みなく発生するノイズによってもう一枚の 写像、「別なる自然」を形成していくことになる。

 このことから、ひそかに思うのだが、この一連の運動系の奥には、全宇宙に作用をおよぼしている動態的なプログラムのひとつが、象嵌されているのではない か、と。
「移動・遷移」、「変化・変容」を制御しているメカニズムの古層につきあたった感覚をおぼえるのだが、きっとこれは、複雑系のまっただ中のできごとに違い ない。あるいは、存在全体に関わる「自明の理」なのか。ヘラクレイトスはこのことを『panta  rhei』と称した。

田中孝道


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