原 美樹子 写真展「雲間のあとさき」

2008年5月1日(木)〜31日(土) 作家略歴 

 
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中学二年の時のことだ。
航空写真の撮影のため、全校生徒はグラウンドに招集され、校章や校名を形作るために所定の位置に並ばされた。

抜けるような秋晴れの日だった。
かなたからセスナ機が飛来する。どこからともなく歓声が上がり、誰からともなく雲の上の飛行機に向かって、手を振りはじめる。私はとっさにセーラー服のネクタイをほどき、それを振った。なぜそうしたのかわからない。きっと空が青かったせいだ。

セスナ機が彼方に飛び去った後、学校一強面の体育の先生が「ネクタイ振っとったもん出てこい」と罵声を放ちながら、駆け寄ってきた。その場で、往復びんたを食らい、半日職員室前廊下に正座することとなった。
何故その制裁が下ったのかわからない。その時はただ、殴られた衝撃や、全校生徒の奇異な目がいたたまれず、涙をしゃくり上げながら、その日の事を、頭から消し去る事しか考えなかった。
後になって、出来上がった航空写真が張りだされた。生徒ひとりひとりが点となり、校章、校名を見事に描き出していた。ただ確かに、私の罪を証明するかの様に、糸屑 ほどのネクタイがひょろりと飛出していた。その写真は、その後何年もの間、校長室に掲げられることになる。

今になって思い起こすと、何が正しくて何が間違っていたのか。
ただ、境界の部分は朧げでぼやけたままだ。記憶は極度に断片化し、預かり知らぬ整合性が、自分の型をむやみに保つ。
正誤の判別は、いつだって、予告なく、密やかに、下される。
行動の根拠も、始まりも、終わりも、時間の波が容赦なく押し流して行く。

原美樹子


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