ヨシ 比嘉（比嘉良治） 写真展「虹の暗箱」

カメラによって現実に存在する三次元を平面に縮小または拡大して置き換えられた写真は、当然のことだが実像ではない。画家マグリットの作品にパイプが描かれていて「これはパイプではありません」と書き指摘している点と共通している。

我々が写真を見るとき被写体の大きさ、重量、質感、空間、色、匂いなどを知識や過去の経験を通して得た記憶を無意識に重ねて見るので、何ら抵抗なく現物のように受けいれる。

今回の『ヨシ比嘉』の個展は［NY ビルシリーズ］から抜粋されたモノクロームの作品３８点。

被写体はマンハッタンの重厚なビルや建設中の高層ビル現場、モニュメントなどを対象にしている。それらの巨大な建造物が踊っているように空中に浮かび重力 を失う、構造学や建築物理の原則がパズルのようにねじれて視点を変え、硝子などの素材が光分解でもしたかのようにパターン化して質感を変えている。それは 過去の認識や経験を否定し、あるいは一端分解してから幾何学的に再構成され戸惑いを感じざるを得ない。

計算と偶然、バランスとアンバランス、静と動などの相反する組み合わせによって生じる次元を制作の基本姿勢にしているという。

「虹の暗箱」はハイテックが詰まっているかのような空箱、ここで描かれる映像を『比嘉』は無条件で信頼しているようだ。

ヨシ比嘉