北井 一夫 写真展「80' フナバシストーリー」

「団地望郷」

この写真を撮影した１９８０年代の団地は、刑務所のようだとか、一戸建てに入るまでの仮りの住まいとしか見られていなくて、
良いイメージで団地が話題にのぼることはなかった。

それからもう２０年が過ぎた。私も６０歳をこした。今では遠くまで出かけて行って写真を撮るのがすっかり億劫になった。
また古いライカを持って近所のフナバシの団地を散歩して写真を撮るようになった。そこでうれしい発見があった。
２０年前には悪口ばかり言われていた団地が、気づいたら、樹木が成長し、
緑がいっぱいの一番いい私の散歩コースになっていたのだ。

団地の外の風景は、この２０年間どこもさまざまに激しく変化しつづけた。
にもかかわらず団地の敷地内は、変化することなく、そこで生まれて育った子供たちにとって、
なつかしく静かな故郷でありつづけてい たのだ。

北井一夫